特定非営利法人東京都港区中小企業経営支援協会NPOみなと経営支援


●2012年9月 「デザイン思考について」

●2012年9月 「デザイン思考について」

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2012年9月 「デザイン思考について」

中小企業診断士 長島 博 ITコーディネーター

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便利さと効率性を追求した「モノ」の時代が終わろうとしています。

「ガラパゴス化する日本の製造業」(宮崎智彦著、東洋経済新報社)で示された技術者のプライドやシーズが、一部の先鋭化した顧客ニーズと組み合わさり、いつしか世界標準の流れからかけ離れていくさまを客観的に覚醒させられたのは数年前のことでした。

いま、その代表たる家電業界は大変な状況に置かれています。海外移転による国内の空洞化が言われて久しいですが、最後の砦である技術力、研究・開発機能がまだあると一縷の望みを抱いて「モノ」作りに従事しているのが現状ではないでしょうか。

しかしながら、製品のコモディティ化から知識のコモディティ化が起こっているともいわれています。コモディティ化とは、市場に流通している商品が、メーカーごとの個性を失い、消費者にとってはどこのメーカーの品を購入しても大差ない状態の事を言います。

製品の部品がモジュール化し、モジュールの安値大量流通によって、いわゆる自前主義の垂直統合型製造が崩れ、水平分業型の世界中から必要な安価なモジュールを調達し組み立てる製造業が市場を席巻しているのです。このような水平分業では、外部から調達することとなった部分については、品質の安定や価格の低下を促す為に、かつて培ったノウハウを提供することで、さらに技術・知識の提供が進みます。知識のコモディティ化です。

ビジネスウィーク誌(2005年特別号)では、時代考証を次のように示しています。
 第一(80年代)は、技術と情報がコモディティ化とグローバル化を引き起こす時代。
 第二(90年代)は、コモディティ化に伴う空洞化、アウトソーシングの時代。
 第三(00年代)は、「デザイン戦略」が「シックスシグマ」を代替し始める時代。
 第四(10年代)は、創造的イノベーションが成長を推進する時代。
 第五(現在以降)では、新しい「イノベーションDNA」を持つ創造的企業が勃興する社会が登場する。

ここで採り上げられた「デザイン戦略」が「デザイン思考経営」、デザインによるイノベーションを促す経営、「シックスシグマ」は技術中心のイノベーション促す経営を代表しています。

つまり、技術中心のイノベーションの限界を、デザイン思考のイノベーションによって超越していこうというものです。技術中心のイノベーションが不要になるということではありませんが、大きな世界観の変更を見据えています。

世界中から最も適したモジュールをいかに組合せて、いまだかって消費者が描いた事のない潜在的なニーズを掘り起こし製品化する「デザイン」力が今や必要不可欠になっているのです。アップル社のi-PADも既存技術の組み合わせから成り立ち、新技術は核となる一部分に過ぎないといわれています。

「モノ」の時代から「コト」の時代へと

「もはや未来は予測できない、未来はデザインされるべきである。」(ピーター・ドラッカー)

これまでのビジネスの主流だった客観的な方法、市場調査や顧客の意見による、市場マーケティングや既存優良顧客重視の経営が、クリステンセン教授がいうイノベーションのジレンマをもたらし、イノベーションや市場から取り残されることは有名になりました。

これは、従来の技術中心「モノ」の時代には、@不満要因の解消(あたりまえ品質)、A満足要因の追求(技術品質)であり、顧客や市場で顕在化していましたが、現在は、脱技術優位のB魅力要因の創出(魅力品質)が求められる人間中心の「コト」の時代といえ、魅力を扱うより主観的な方法が求められています。つまり、潜在化して見えないこととそれらの関係性などを明示することが必要となります。

先日、「日立イノベーションフォーラム2012」にて、ポーター教授の「CSV(共通価値)」についての講演を聴く機会がありました。CSV(共通価値)とは、社会問題の解決と企業競争力向上の両立を目指した価値の追求であり、CSR(企業の社会的責任)の社会貢献を“責任”ではなく“機会”ととらえることで競争力を強化して利益を拡大、成長できるとしたものです。

これはまさに「コト」への意識改革を促したものといえるのではないでしょうか。

では、「経営とデザイン」はどの様に変化してきているのでしょうか。「知識デザイン企業」(紺野登著 日本経済新聞出版社)によりますと、現在は、新たな時代には入っており、その一つの現われが「デザイン思考」であると言っています。

・エステティック・デザイン期(1960年以前)
  商品の形態に美的意匠を与えることで、欲望の喚起、魅力付けを行った。
・意味のあるカタチのデザイン期(1980年代)
  生活環境や社会的文化的記憶といった日常的シーンから意味を発見し、適した形態を生み出
  す。
・行為・経験のデザイン期(21世紀)
  デザインが生み出すのは総体的な行為や経験である。思考プロセスや感情の動きなどがデザ
  インの対象となる。
 ・新たな時代へ

「デザイン思考」とは
デザイナーと呼ばれる人々の仕事術から核となる部分を抽出し、実際のビジネスに沿う形で商品の開発から製造、流通にいたる過程に適用、ひいては企業経営全体をデザインして、魅力ある商品を継続的に生みだせる組織に作り変えること。
「デザイン思考の道具箱」(奥出直人著 早川書房)。

具体的には、次の3つのプロセスを揃え、かつ融合した活動がデザイン思考であるとしています。「デザイン思考と経営戦略」(奥出直人著 NTT出版)

@アイデアを形成する
未知数の市場や顕在化していないニーズを探るには、技術などの制約事項をまず理解した上で、実際のフィールドを観察します。

この観察する行為をデザイン思考では重要と位置づけ、エスノグラフィー (民族学的観察)と呼びます。

達人の自然な振る舞いや人々がしないことや言わないことに注意を傾け、経験を共有して「気付き」を得るプロセスです。

A作って考える
得られた仮説やアイデアを実際に作ってみるプロセスです。

トライ&エラーを容認し、簡単なプロトタイプ(試作品)を何度も作成、確認し、アイデアの発散と収束を繰り返します。実際に人に使ってみてもらったり、視覚化することで問題がより明確化し、「失敗することで前進する」を実践します。

Bコラボレーションする
異分野の人たちが集まり作業を行います。従来は、企画を出す人と、デザインやエンジニアリングを実際に行う人が別々に作業することが多いのですが、これではイノベーションの機会を失っています。一緒になってビジネスソリューションを追求していくプロセスです。

この「デザイン思考」を実践するためには、まず経営者の皆さんが、まず隗より始めよで、ワークショップなどでコツやツールを実感するのが第一歩です。そして徐々にメンバーを増やし、組織化するのが良いでしょう。

多くの一流企業の製品開発を請け負い、その優れた製品のみならず、それを生み出す企業文化までもが注目されている米国のデザイン会社IDEOのCEOであるティム・ブラウンが「デザイン思考が世界を変える」を書き多くの事例を示していています。

まさに、「デザイン思考」を実践している企業ですが、この考え方は、大企業だけのものではありません。
今の日本の様な単なる技術力競争で疲弊する環境から一歩抜け出す機会となると考えます。

中小企業診断士 長島 博

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