特定非営利法人東京都港区中小企業経営支援協会NPOみなと経営支援


●2012年7月「経営者が注意すべき公的年金の落とし穴」

●2012年7月「経営者が注意すべき公的年金の落とし穴」

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2012年7月 「経営者が注意すべき公的年金の落とし穴」
       −遺族厚生年金の落とし穴―

社会保険労務士、中小企業診断士、CFP
 一級ファイナンシャル・プランニング技能士
 小野 猛

メールはta-ono@joy.ocn.ne.jpまで願います。


■―――――――――――――――――――――――― NPOみなと経営支援協会−■

海岸通り商店街はあまり大きくない商店街ですが、個性的な店舗とおもしろいイベントを行う活気のある商店街です。数年前までは、空き店舗の目立つシャッター通り商店街と比喩される商店街でした。

数年前に新しく海岸通り商店街振興組合の組合長になった小浜大助さんは、今までの長老による持ち回りの組合長と違い、若い商店主や後継者層に人望のある経営革新に熱心な人物です。

小浜組合長は個店と商店街の魅力付けの必要性を商店主に熱心に説き、具体性のある理論展開と小さな成功の積みかさねにより賛同者を増やして行き、念願の空き店舗のテナント募集もでき、商店街に少しずつ活気が戻ってきました。

賛同者の中で最も熱心で小浜組合長の右腕となって協力したのが栗原富太郎さんです。
家業の後継者となることを嫌い、栗原富太郎さんは学校を卒業するとそのままサラリーマンになっていましたが、小浜組合長に共感し13年間勤めた会社を退職して店の後継者となったのでした。

海岸通り商店街は古くからの伝統ある商店街です。そのため、商店主の足並みがそろわず、まとまりのない商店街でした。

徐々に個店の経営革新が成功するとともに、商店街の統一企画も本気の参加者が増えて行きました。小浜組合長と栗原富太郎さんは、商店街活性化の総仕上げとして地域資源を活用した商店街あげてのイベントを企画しまたした。イベントは、近くの農協と漁協との農商工等連携事業として行政の認定も受け、まさに海岸通り商店街の地域資源活用の歴史的イベントとなる予定です。

イベントを直前に控えた日に、大変な出来事が起こりました。過密日程の中でたまたま空いた休日に、小浜組合長と栗原富太郎さんが共通の趣味である磯釣りに出かけ、高波にさらわれ二人とも死亡したのでした。

小浜組合長には高校生の長女と中学生の長男の二人の子供がいますが、栗原富太郎さんには子供はいませんでした。

小浜組合長と栗原富太郎さんともに、個人としても、まさにこれからと言うときの出来事でした。
小浜組合長は、店の経営をさらに発展させるため個人事業から会社組織にしたところでした。
栗原富太郎さんは廃業寸前の店を引き継ぎ夫婦して盛り返し、従業員を雇うことができるまでになり、どうにか子供を育てられる余裕もでき、夫婦で子供がほしいと話し合っていたやさきでした。

小浜組合長と栗原富太郎さんの二人とも事業中心に考えていたので、余裕資金はすべて事業につぎ込みました。そのため、貯金はほとんどありません。それどころか、事業上の借入金の担保提供や債務保証をしていました。

これからの状況次第ではどうなるか明らかではありません。残された家族は悲しみとこれからの生活に対する不安でいっぱいです。

こんな状態なので、残された家族にとって、十分な金額とは行かないまでも確実な収入源として期待できそうなのは公的年金からの遺族年金だけです。小浜組合長と栗原さんは公的年金の保険料を一度も滞納することなく払い続けてきました。

ところが、小浜組合長の遺族年金は支給されることになりましたが、栗原さんの遺族年金はまったく支給されません。

どうして、こんなことになってしまったのでしょうか。公的年金の遺族年金は、働き手が亡くなったときの基本的なセイフティネットのはずです。

そこで、自営業者や会社経営者のための遺族年金の相談事例Q&Aとして「遺族基礎年金の基本的な支給要件」と「遺族厚生年金の基本的な支給要件」についてQ&A形式で解説します。

経営者として、遺族年金の支給要件を知っていれば、事前の工夫で遺族年金の支給要件を満たしておくことや他の対策を講じておくことも可能です。そのためにも、経営者に必要な最小限の基本要件だけでも知っておいてください。


脱サラをした夫は公的年金の保険料を
一度も滞納したことはありません。
どうして夫の遺族年金が支給されないのですか。?




夫の遺族年金が支給要件に該当しないとのことで支給されないことになりました。どうして支給されないのですか。

夫は学校を卒業してから13年間会社に勤めており、その間、厚生年金に加入していました。その後、脱サラで会社を退職して自営業になり、すぐに国民年金に加入し、これまでの2年間の保険料は一度も滞納したことはありません。私たち夫婦には子供はいません。


まず、現在加入中の国民年金の場合、遺族基礎年金が支給されますがその保障範囲は厚生年金に比べて格段に狭く、子のある妻か子(孤児)にしか支給されません。また、国民年金の固有制度として寡婦年金がありますが、国民年金単独で25年以上の加入期間が必要など非常に受給要件が厳しくなっています。

つぎに、厚生年金の場合、厚生年金に加入中の死亡であれば、たとえ厚生年金の加入期間が1カ月しかなくても遺族厚生年金が支給されます。

対照的に、脱サラした人は、厚生年金の加入者ではないので老齢厚生年金がもらえるだけの年金の加入期間がないと、遺族厚生年金は支給されません。そのため、比較的若くして脱サラした人は、遺族厚生年金の受給要件が得られにくいのです。

ご質問の内容からだと現在加入中の国民年金と13年間加入された厚生年金について、遺族基礎年金と遺族厚生年金のどちらの支給要件にも該当しません。
したがって、お気の毒ですが、遺族基礎年金も遺族厚生年金も支給されません。 

解説
原則として、国民年金に加入中の死亡であれば遺族基礎年金が支給対象となり、厚生年金に加入中の死亡であれば遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方が支給対象となります。

遺族基礎年金を受けることができる遺族の範囲は遺族厚生年金に比べると格段に狭く、そのため遺族基礎年金しか対象にならない国民年金の遺族保障は限定されたものになっています。

遺族基礎年金を受けることができる遺族の範囲は、妻(妻には子がいること)または子に限られています。これに対し、遺族厚生年金を受けることができる遺族の範囲は、配偶者(妻または夫)、子、父母、孫および祖父母です。

したがって、子のない妻、夫、父母、祖父母、孫には「遺族厚生年金」が単独で支給されることになります。

注1.子とは、18歳到達年度末までにある子をいいます。具体的には年金法上の子をいい、高校卒業の年齢(18歳になった後の3月末)までの子(障害のある子の場合は20歳未満)をいいます。

注2.夫、父母、祖父母には55歳以上という年齢制限があり、孫には子の場合と同様の年齢制限があります。

 

保障範囲の広い遺族厚生年金には思わぬ落とし穴があります。

そのため、今回の事例のように厚生年金に13年という長期間の加入歴がありながら、脱サラをしたために、遺族厚生年金とは無縁になってしまうことがあります。

脱サラ等で退職後であっても遺族厚生年金が支給される制度もありますが、そのためには老齢厚生年金の受給資格期間を満たしている必要があります。公的年金の受給資格期間は原則として25年です。受給資格期間を満たすためには25年以上の加入期間が必要です。これは若い人にとって非常に厳しいものと言えます。

ちなみに、日本の受給資格期間は25年ですが、アメリカと韓国は10年、ドイツは5年、イギリスは11年(女性は9.75年)、フランスとベルギーは1か月です。日本もせめて10年程度に短縮してもらいたいものです。

今回の事例のように長期間年金の保険料を払いづづけていても、老齢年金も遺族年気も支給されない事態が起りえます。

公的年金は相互扶助なので、相対的に必要度の高い人に回されるのはやむを得ませんが、今回の事例のようなケースでは、残された妻が一人になってしまい、遺族年金が支給されないと、いったいこの先どうやって生活すればいいのでしょうか?

今回のような脱サラだけでなく、リストラや転職などで失業中に死亡した場合も同様の悲劇が起こりえます。
出費を抑えたいときですが自助努力しかありません、公的年金の仕組みを知って必要最小限の保険に加入することも必要です。


相続放棄をした場合、遺族年金はどうなりますか?




事業拡張のため多額の借金を残して、夫は亡くなりました。事業を続けようと努力しています。もし、金融機関や事業の利害関係者の協力が得られない場合、事業は破産します。夫は事業の借金の債務保証をしており、莫大な借金を背負うことになります。
そうなれば、相続放棄をしようと思うのですが、 私(妻)の遺族年金の扱いはどうなりますか?


相続放棄をした者は、初めから相続人とならなかったものとみなされます。そのため、相続放棄をすることにより夫の残された財産(プラスの財産はもちろん、借金などのマイナスの財産も含む)について、相続人とならないことができます。

遺族年金が相続財産かどうかポイントになります。
遺族年金を受ける権利は、死亡した人との関係において法律で定まっており、 受給権者となった者は自己の固有の財産として遺族年金を受給することができ相続財産ではありません。したがって、相続放棄をしても、遺族年金は受給することができます。

解説
相続放棄をしても遺族年金は受給権者の固有の財産として受給することができ、差し押さえを受けることもありません。
相続放棄をする場合は、つぎの2点に注意する必要があります。

@ 相続の放棄を3カ月以内に家庭裁判所に申述すること
相続の放棄をしようとする者はその旨を3カ月以内に被相続人の最後の住所を受け持つ家庭裁判所に申述しなければなりません。

相続の開始があったことを知った時から3か月以内に限定承認または相続放棄のどちらかを選択しなかった相続人は(家庭裁判所に期間の伸長を申し出なければ)単純承認をしたものとみなされます。
また、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときも単純承認したものとみなされます。
単純承認とは、被相続人の権利義務を承継することを相続人が無限定に承認することです。

A 債務を免れるための相続放棄は相続人だけではだめ
相続人である同順位者全員が相続放棄すると、後順位の者が相続人になります。

たとえば、子全員が相続放棄をすると、直近の直系尊属(父母等)が相続人となります。つぎに直系尊属が相続放棄をすれば、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。

したがって、相続財産が債務超過の場合、債務を免れるためには、配偶者を含めこれらの者すべてが順次、または同時に相続放棄をする必要があります。なお、被相続人が死亡して3ヶ月経過していても、前順位者全員の放棄が申述受理されたこと、すなわち自己が相続人になったことを知ったときから起算されます。

注.民法915条1項、920条、921条2号、938条他、家事審判法、非訟事件手続法


厚生年金に加入して数カ月の夫が死亡しました
遺族厚生年金の請求はできますか?




夫は個人経営の商店を経営していましたが、事業が大きくなってきたので、個人事業から会社組織に変更しました。夫は会社の社長となり、始めて厚生年金や健康保険に加入することになりました。

その数か月後に、夫は事故で死亡しました。私どもには高校生の長女と中学生の長男の二人の子供がいます。遺族厚生年金を受給することができるのでしょうか。受給できても、加入期間が短いので金額が少ないのではないかと心配しています。


遺族厚生年金の支給要件は現役にやさしく、厚生年金に加入中の死亡であれば、たとえ厚生年金の加入期間が1カ月しかなくても25年間加入したものとして遺族厚生年金が支給されます。それに、18歳未満のお子さんが2人おられますので、遺族基礎年金も併せて支給されます。

解説
この事例のように短期間の加入でも、好調な会社の経営者のような高額所得者の場合、たとえ1か月の加入であってもその高額な所得で25年加入したものとして計算されるので、遺族厚生年金は比較的高額なものとなります。

この事例のケースでは子(年金法上の子)が2人なので、さらに124万円程度の遺族基礎年金も遺族厚生年金に併せて支給されます。

この事例のケースでも注意すべき遺族年金の落とし穴があります。そのためこの事例と類似のケースで遺族年金がもらえないという事態が実際に起こっています。

このケースの落とし穴とは、妻が死亡した夫に生計を維持されていた関係にあったかどうかということです。もし、妻の前年の収入が850万円(所得655.5万円)以上あった場合、生計維持関係がないものとされ、遺族年金が受けられなくなります。

同族経営の会社などで、節税目的等のため親族を役員にして所得の分散を図り、妻の収入が850万円(所得655.5万円)以上になったため生計維持関係が認められず、妻への遺族年金が支給されないことになりかねません。

まとめ

1.遺族基礎年金の保障範囲に気をつけろ

自営業など現在加入中の公的年金が国民年金の場合、遺族基礎年金が支給されますが、遺族基礎年金の保障範囲は非常に限定的です。家族のライフプランをもとに保険などで自助努力による保障の補完をしておく必要があります。
遺族基礎年金は子のある妻か子(孤児)にしか支給されません。また、妻に支給される遺族基礎年金は子が18歳到達年度の末日(高校卒業年齢)になると失権します。

2.脱サラ・転職の際は自分の公的年金の確認を忘れずに
脱サラした人は、老齢厚生年金がもらえるだけの受給資格期間(原則25年間加入)がないと、遺族厚生年金は支給されません。脱サラだけでなく、リストラや転職などで失業中の場合も同様です。出費を抑えたいときですが自助努力しかありません、公的年金の仕組みを知って必要最小限の保険などに加入することが必要です。国民年金に加入することになりますが、保険料はきちっと払いましょう。

3.遺族年金を受ける権利は相続財産ではありません

遺族年金を受ける権利は、死亡した人との関係において法律で定まっており、受給権者となった者は自己の固有の財産として遺族年金を受給することができ相続財産ではありません。したがって、相続放棄をしても、遺族年金は受給することができます。

4.債務を免れるための相続放棄は相続人だけではだめ

相続人である同順位者全員が相続放棄すると、後順位の者が相続人になります。たとえば、子全員が相続放棄をすると、直近の直系尊属(父母等)が相続人となります。つぎに直系尊属が相続放棄をすれば、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。
したがって、相続財産が債務超過の場合、債務を免れるためには、配偶者を含めこれらの者すべてが順次、または同時に相続放棄をする必要があります。

5.生計維持関係に要注意

死亡した人との生計維持関係が認められないと、遺族年金が支給されません。もし、妻の前年の収入が850万円(所得655.5万円)以上あった場合、生計維持関係がないものとされ、遺族年金が受けられなくなります。
同族経営の会社などで節税目的等のために親族を役員にして所得の分散を図り、妻の収入が850万円以上になると生計維持関係が認められず、妻への遺族年金が支給されないことになりかねません。
また、夫が不治の病にかかり死の床についている場合、妻の収入が850万円を超えそうであれば、残業をやめて850万円未満に抑えましょう。

社会保険労務士、中小企業診断士、CFP
 一級ファイナンシャル・プランニング技能士
 小野 猛

メールはta-ono@joy.ocn.ne.jpまで願います。


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