特定非営利法人東京都港区中小企業経営支援協会NPOみなと経営支援


●2011年12月「インドのITパワーを活用しましょう!」

●2011年12月「インドのITパワーを活用しましょう!」

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●2011年 12月 
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2011年12月 「インドのITパワーを活用しましょう!」
中小企業診断士 橋本 博之

メールはhhasimoto@nifty.comまで願います。


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下の絵をご存じですか。

左側がインドのヒンズー教の神様「ガネーシャ」で、右側は日本で仏教で祀られている「歓喜天(聖天)」です。

仏教はインドでお釈迦様によって興され、日本に渡来してきました。この歓喜天は日本の各地の寺院で祀られています。湯島天神の男坂下の天台宗心城院のご本尊も歓喜天(聖天)です。
かつて菅原道真公も歓喜天を崇められていたとありますから、本物の象を知らないいにしえの人たちも、この象頭人身の仏様を拝んでいたはずです。

また、浅草の浅草寺など、煙を体に当ててご利益をいただく風習はインドでも類似のものがあります。こうしたインド的なものが種々日本に伝来しており、日本とインドは昔から関係が深かったことに気づかされます。そして今日でも、インド人の多くは親日的です。

このインドですが、中国の13億人に次いで人口が多く12億人を擁し、2025年には少子化政策を採っている中国を抜き世界一の人口になるといわれています。さらに、25歳以下の比率が52%あり、今後の発展力にも大きなものがあります。インドの2010年の実質GDP成長率は8.5%で、ここ数年8%前後の成長を遂げています。このインドの産業の中で、特筆すべきはIT産業です。

インド人はかつてゼロの発見と10進位取り記数法の創出、九九を20×20まで暗記するなど数学に秀でていて、素質的にITの素養がある人たちです。米国シリコン・バレーをはじめとして、米国内でも多くのインド人がIT産業にかかわっています。インドのIT産業の発展はこうした素養のある人たちの存在に加え、多くの技術系大学の存在、IT産業をサポートする産官学の相互協力による施策の結果です。この結果今日では、ITサービス輸出はインドの輸出の26%を占めるまでに至っています。

さて、日本においてIT経営の必要性は以前から言われ、既にITを導入、活用している中小企業者は多いと思いますが、さらにIT適用範囲の拡大、強化も必要です。ITすなわちシステム利用を行うには、必要とする機能が既成のパッケージソフトにあればそれを使用できますが、多くの場合は望む機能を明確化(要件定義)し、設計、製作(システム開発)を行います。システム開発は人手をかけて行う作業であり、1人で1ヶ月の作業を1人月として作業規模を○○人月、コストは1人月○○万円で積算し全体のコストを算出します。このシステム開発作業を日本人のエンジニアが行うと人月単価が高くなります。

このため10年位前から人月単価の安い海外へシステム開発を委託する動きが拡大してきました。こうした日本から海外へ委託し開発することをオフショア開発と言います。オフショア開発の狙いは現地の安価な労働コスト利用によるコスト低減、技術力の補完、必要なタイミングで人を集められる動員力などがあります。この委託先として代表的な国がインドと中国です。(他にもベトナム、フィリピン、ブラジル等もあります。)

中国は日本語がわかる人が多く、我々委託側は日本語で会話ができる特徴があります。一方、インドは英語圏なので通訳、翻訳が必要になりますが、IT技術力に優れています。いずれも日本国内価格より安くオフショア開発の委託先として進展しています。

ここではインドへの委託開発で経験した内容を基に、インドのITパワーの活用における留意点について述べたいと思います。

各種メディアにてオフショア委託で失敗し、プロジェクトが赤字になった例が報じられています。オフショア開発委託での成果物の受け入れ検査で障害が頻発し、ひどい場合は作り直しになり、納期は遅れ、コストは増大します。インド利用でも例外ではありません。こうした開発プロジェクト失敗は多くの場合、技術力の低さではなくコミュニケーションの不備、不足に起因しています。コミュニケーションの不備、不足は、国民性の違う外国人では常識が異なること、遠隔地であること、および本来のプロジェクト管理が不十分であることによります。

日本人は外国人(ここではインド人)の国民性を理解していないためコミュニケーションギャップが出てきます。

例を挙げると、以下の通りです。

・理解度にギャップがある。

現地に行って仕様、依頼事項、プロジェクトの進め方等を説明しても、多くの場合、伝わっていません。こちらは話したのだから伝わったと思って、分かりましたか?と聞けばYesと答えますが、実は理解していませんから的確な作業につながりません。これには分かりましたか?の問いかけでなく、相手にポイントを説明させてみて理解度を確認することです。プロジェクトの進捗会議でも、問題ありませんか?と聞けばNo Problem(問題ない)となってしまいます。具体的な部分でどうであるか、聞き、説明してもらう。相手側の反応を知った対応が必要です。

・言われたことしかしない。それ以外の余計なことはしない、してはいけないという風土。

指示されていないことを気をきかせて実施するという文化はありません。納品物に不備がありそれを指摘すると、指摘箇所は修正してくれます。しかし、その納品物全体で同じ不備の箇所を調べそこまで修正するよう指示しないと、気をきかせてやってはくれません。

・困難な内容(スケジュールや要員体制など)を安易に引き受ける傾向がある。

これは、一面はコミュニケーションの誤解から来ていると思います。以前、インドの企業へ研修派遣という形で、インド企業内に若手を育成のために派遣したときこのこと。インド人のメンバーと一緒にプロジェクトに入り9ヶ月間チームの一員として活動した日本人のメンバーが9ヶ月間の終了時、インドの責任者に質問しました。「インドの人に仕事を依頼すると、Yesと答えるが実行してくれない。何度も依頼してやっと行ってもらえた。インドの人はなぜそうなのか?」
インド人の責任者は、「インドのYesはあなたの言うこと(依頼事項)は聞いた。だからYes」(聞くことは聞いたが依頼事項を行うとは言っていない・・・)そういうYesだと。日本人ならYesと言ったら責任もってやり通す、と思いますが、言葉の一つの意味がこうも違います。

もう一面は契約の認識の違いから来ていると思います。一括請負契約でソフトウェアの設計、製作を委託しましたが、納期までに完成しなかったトラブルケースでのこと。インド側は日本側の仕様、範囲の提示が不十分で当初想定より工数がかかっている。この工数分を請求する、と納期の時点で問題提起し、もめたケースがありました。一括請負の捉え方も違いがあります。プロジェクト途中のコミュニケーションも不備でした。

・仕様変更の許容度が低い。

当初に示した仕様から途中で技術改善を行おうとしても、仕様変更であり追加の工数を請求する、・・という風に日本国内とは異なります。

・納期と品質に対する認識が甘い。

納期に納入されたシステムの品質が悪く障害が頻発。これはインド側が納期を優先するあまりテスト不十分で納入してきたためでした。当然テストは十分行って納入すると考えていましたから、品質重視を明示的に言わなかったためで、当初の方針説明と、プロジェクト途中のコミュニケーションが不備でした。

・作業範囲の詳細な内容を確認せずに、インド側で勝手に決めて進めるケース有り。

これもコミュニケーションの問題でした。

上記の例は、相手は日本の常識とは違う、ということであって、日本側が良くて、相手側が悪い、・・ということではありません。日本中心の発想にとらわれると誤解は残ってしまいます。こうしたインド人の思考様式、行動様式を‘違い’として受け止め、処していく技が必要です。それは相手を熟知した上でのコミュニケーション技術であり、プロジェクト管理力です。

また、日本側での委託時のスタンスも考える必要があります。
トラブルプロジェクトでは、日本側の担当者が「委託をしたのだから相手側で問題処理すべきであり、成果物を待つ」スタンスでおり、その結果、納品時に品質不良や納期遅延のトラブルが起きています。「相手を信頼しつつ、細部の確認はきめ細かく行う、口を出す、一緒に問題解決を考える」というスタンスが必要です。

次の留意点として、オフショア委託開発は遠隔地開発になります。コミュニケーションの問題は同じ場所で作業をするのと遠隔地で作業するのでは、情報の伝わり方に雲泥の差が出ます。日本国内でも東京と開発地沖縄ではコミュニケーション不備が出ました。仕様変更が発生したのに、それが徹底できませんでした。いわんや国民性も違うインド人との間ではコミュニケーション不備のリスクは高くなります。

こうした遠隔地開発では、電話会議、Web会議等、意識したコミュニケーションの緊密化は当然として、最も有効なのは現地に担当者を駐在させ、現地水際で指示、進捗確認、問題対応の処置を行うことで、コミュニケーションの齟齬や時間のロスを防ぐことが出来ます。

以上、数点の留意点を述べましたが、オフショア委託においては日本中心の考えだけで推し進めるのでなく、相手の国民性を知った上で、彼らの長所を活かすよう付き合うことがポイントです。こういう考慮点があることを認識した上で、経験者を間に立てて、オフショアプロジェクトを成功裏に進めることで狙い通りの低コスト開発が実現できます。

これまで日本からインドのITパワーを活用する観点で述べてきましたが、人口増と、低所得層から中間層へと消費需要も将来的に拡大が期待され、市場としてのインドも魅力的です。インド政府も雇用機会の創出ためにインドへの企業誘致に積極的になっています。
こうした、インドへの’進出’に際しても、上述のようにインドの人のものの考え方、行動様式を知っておき、彼らに合せて対応策を考えていくことが重要になります。
中小企業診断士 橋本 博之

メールはhhasimoto@nifty.comまで願います。


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