特定非営利法人東京都港区中小企業経営支援協会NPOみなと経営支援


●2011年12月「知的資産経営のすすめ」

●2011年12月「知的資産経営のすすめ」

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2011年12月  「知的資産経営のすすめ」

中小企業診断士 土田 健治

メールはtsuchida@sunny.ocn.ne.jpまで願います。


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このコラムでは、「知的資産経営」についてご紹介しましょう。なにやら難しそう? そんなに知的なことはことはやってない? 実はそんなに縁遠いお話でもないのです。

■企業競争力の源泉について考えてみましょう

企業を取り巻く経営環境が厳しきおり、ますます競合との競争力が求められています。では、企業競争力は、何によって生まれるのでしょう? たくさんの資金がある。高額の設備をもつ。単にそれだけでは、なかなか企業競争力にはなりくにいですね。

資金や設備は、財務諸表で取り上げられるものですが、むしろ企業の競争力は、財務諸表では取り上げないもの、たとえば、人材、技術、技能、特許、企業イメージ・ブランド、組織力、経営理念、顧客とのネットワークなどの中から生み出されてきます。

2008年の中小企業白書では、「中小企業が最も重要と考える経営資源」の第一位は人材(全体の48%)、第二位は技術(同25%)、第四位に企業イメージ・ブランド(同8%)という調査結果が紹介されていました。この3つで全体の8割を越えます。財務諸表には表れてこないものが、実際には重要視されていることがわかりますね。

これに対し同じ調査結果では、財務諸表で扱われる資金や設備といった有形資産は、それぞれ全体の8%、5%ということでした。経営資源としての重要度は、わずかの比重となっていることがわかります。

■「知的資産」とは

人材、技術、技能、特許、企業イメージ・ブランド、組織力、経営理念、顧客とのネットワークなど、財務諸表上には表れてはこないが、企業競争力の源泉となる、目に見えづらい経営資源のことを「知的資産」とよびます。

似た言葉に「知的財産」がありますが、「知的資産」はもっと広い意味を持っています。また、必ずしも「知的」な要素がなければならないということはありません。「体育会的なノリの社風」といったことも、それがその企業の競争力となっているのであれば、立派な「知的資産」です。

■「知的資産経営」とは

「知的資産経営」とは、こうした「知的資産」を積極的に見出し、強化し、企業価値の向上に向けて活用していく経営のことを指します。経営資源が乏しいといわれる中小企業こそ、この「知的資産経営」を推し進めるべきだとの観点で、2005年頃より経済産業省などが、その普及に力を入れてきています。

■「知的資産経営」の特徴

「知的資産経営」にはいくつかの特徴がありますが、ここでは「知的資産経営の情報開示」についてふれます。「知的資産経営」においては、自らの会社の「知的資産経営」について、積極的に「情報開示」することに重きをおくのです。

すでに見てきたように、「知的資産」は、もともと目に見えづらい資産です。また、企業経営を対外的に明らかにするためのレポートである「財務諸表」あるいは「決算書」の中では、「知的資産」については基本的に取り上げられません。

このため、企業を取りまく外部の関係者は、何も知らされなければ、その企業の「知的資産」のことが何もわからないままになってしまうのです。「知的資産」とは企業の競争力の源泉、言い方をかえればその企業の「強み」であるのに、知らせないでいることはもったいないことです。

むしろ、自らの「強み」を知らせていないばかりに、相手は競合先を選んでしまうかもしれません。「強み」を知らせていないばかりに、「有利」な取引条件をつくれたものが、「不利」な取引条件に甘んじてしまうことになるかもしれません。

このため、「知的資産経営」では、積極的に、自らの企業の「知的資産」、そしてそれを活かしていく経営のあり方を情報開示し、外部の関係者に伝える取り組みをするのです。具体的には、「知的資産経営報告書」という文書を作成し、外部関係者に向け開示していきます。

■金融機関向けの期待効果

ここでは、「知的資産経営」、なかんずく「知的資産経営の情報開示」に関わる期待効果のうち、金融機関向けの期待効果についてみていきます。2011年の中小企業白書では、中小企業庁が2010年に実施した「経営環境実態調査」の結果を紹介しています。

そこでは、メインバンクに対して自主的に自社の経営に関する何らかの資料を提出した中小企業のうち、27.8%の企業が「メインバンクに明確に自社の強みを理解してもらった」と認識し、55.1%は「ある程度自社の強みを理解してもらった」と認識していました。(合わせて82.9%)

これに対し、メインバンクに自社の経営に関する資料を何も提出しなかった企業のうち、「メインバンクに明確に自社の強みを理解してもらった」と認識した企業は9.9%、「ある程度自社の強みを理解してもらった」と認識した企業は32.8%であったのです。(合わせて42.7%)

ここから、メインバンクに積極的に情報開示をおこなった企業の方が、自社の強みをメインバンクに理解してもらいやすかった、ということがわかります。当然といえば当然ですね。

「経営環境実態調査」では、続いてメインバンク側の強みの理解度と、借入の可否の相関関係についてもみています。

メインバンクが自社の強みを明確に理解していた場合、46.5%の企業が「借入申込額より増額したセールスを受け」、50.8%の企業が「申込額どおりの借入を受け」、「借入申込を拒絶・減額された」のはわずか2.7%とのことでした。

これに対し、メインバンクが自社の強みを全く理解していない場合、「借入申込額より増額したセールスを受けた」のは17.9%、「申込額どおりの借入を受けられた」のは20.9%、そして「借入申込を拒絶・減額された」企業は、なんと61.2%にのぼった、とのことでした。

ここから、自社の強みをメインバンクに理解してもらっている企業の方が、メインバンクから増額セールスを受けたり、申込額どおりの借入を受けられる割合が高く、金融機関は、強みをよく理解している中小企業には貸出を行いやすいということがわかります。

ここでもうひとつ押さえておきたいことがあります。金融機関は、財務諸表・決算書以外にもいろいろな企業情報を収集しているところが多いのですが、まだまだ自らの「情報収集力」「目利き力」は弱いと思っているのです。

2011年の中小企業白書では、2010年の三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる「中小企業向け融資に関する調査」から、全体の54.5%の金融機関が「開示される情報量が少ない」、52.4%の金融機関が「タイムリーな情報提供が行われていない」と感じていることを紹介しています。また、全体の59.3%の金融機関が「技術力や定性的な情報を評価することが困難」であると自認しているとのことです。

こうした金融機関側の「情報収集力」「目利き力」の弱さを、金融監督官庁である金融庁も問題視してきています。2007年に出された「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針の改正」では、「取引先の事業価値を見極めて融資を行うのが地域密着型金融の基本である」とした上で、そのための具体的な手法例のひとつとして、「特許、ブランド、組織力、顧客・取引先とのネットワーク等の非財務の定性情報評価を制度化した、知的資産経営報告書の活用」が掲げられたのでした。

金融機関向けに、財務諸表・決算書だけでは伝えられない自社の強みとその活かし方について、「知的資産経営報告書」というかたちで、わかりやすく伝えていくということは、金融機関側の「情報収集力」「目利き力」を積極的に補うという効果を含め、融資という場面において、効果的な下支えになってくるのです。(もちろん、融資を必要とする対象事業の事業計画自体がきちんとできあがっていることが前提となります。)

■「知的資産経営の情報開示」のその他の期待効果

「知的資産経営の情報開示」は、金融機関との関係ばかりでなく、得意先・仕入先といった取引先の新規開拓・関係強化、あるいは、M&Aを含めた戦略的企業統合・企業アライアンスの相手方探し、人材の採用・補強といった点でも期待効果を発揮します。

■「知的資産経営」の本当の狙い・期待効果

対外的関係者に対する「知的資産経営の情報開示」の期待効果を見てきましたが、「知的資産経営」の本当の狙い・期待効果は、なんといっても自社の企業競争力を強化し、それを通じて企業価値を上げることができるということです。

何しろ、企業競争力の源泉となる「強み」を活かすのですから、業績の向上や経営の安定という良い結果につながらないはずがありません。

■「知的資産経営」を実効性あるものにするための取り組み

とはいっても、「強みを活かした企業経営をしなければならない」といったお題目は、昔から語られている、ありふれた言い回しであり、それが単なるお題目におわり、実際の経営はなかなか思惑どおりにいかないというケースも少なくありません。

「知的資産経営」では、「強みを活かす経営」ということを、お題目に終わらせることなく、実効性のある形ですすめていくことを重視します。具体的には、「知的資産経営PDCAというマネジメントサイクルを回す」「知的資産の活用度をはかる業績評価指標(KPI)を明らかにする」という取り組みを行っていきます。

「PDCAを回す」という言葉をご存じの方も多いと思います。事業(経営)を進めていく場合に、「計画(PLAN)」をたて、その計画を「実行(DO)」し、しかるべきタイミングでその実行状況を計画に照らし合わせて「チェック(CHECK)」し、チェックの結果に合わせて「計画を見直す(ACTION)」というものです。(それぞれの頭文字をつなげてPDCAですね。)

この経営マネジメントの基本を、「知的資産経営」も同じように取り組みます。PLANでは、知的資産を把握しなおし、知的資産を活かす経営計画をたてます。DOでは、知的資産経営そのものをすすめ、並行して知的資産経営報告書をつくり・開示する取り組みを進めます。そしてCHECK、ACTIONで、それぞれ、知的資産経営推進・知的資産経営情報開示のチェックと見直しを進めます。

ここで知的資産経営の進み具合、言い方をかえれば、「知的資産(強み)」の経営への活用の進捗度合いをチェックするための指標が「知的資産のKPI(業績評価指標)」です。このKPIをたて、経営計画の中にビルトインし、PDCAサイクルの中でチェックしていくことにより、「強みを経営に活かす」ということをお題目に終わらせず、実効あるものにしていくのです。

たとえば、サービス業で、自社の強みのひとつが「真心のこもった優れた接客サービス」であるとした場合に、この強みのKPIを「お客様の満足度」とするのです。(「お客様からありがとうと言われた回数」でもよいのです。−これらはあくまでも例です。念のため。)

そして、このKPIには具体的な経営目標値を設定します。たとえば、今期は、「顧客満足度は、お客様アンケート(5段階評価)で、平均4以上」に設定すると。(あるいは「お客様からありがとうと言われた回数をスタッフ一人につき月平均10回以上」に設定すると。−これらも例です。)

その上で、このKPIの達成状況と、実際の業績目標の達成状況を、両者の相関関係としてチェックしていきます。顧客満足度の達成状況に見合って、業績目標の達成状況も上がっていれば、知的資産(強み)が具体的な経営の中で活かされていると判断できるでしょう。

逆に、顧客満足度が目標に達しているにもかかわらず、業績の達成状況が芳しくない場合は、KPIの設定が妥当であったのか否かをふくめ、いろいろなチェック・見直しが必要になります。
こうした「見直し」を繰り返して行く中で、「強み」の活用と「業績」の向上が、しだいに精度の高い相関関係となっていくのです。

■「知的資産経営」のすすめ

「知的資産経営」は、特別な手法の経営ではありませんし、特定の事業者向けの経営でもありません。どんな事業者でも取り組むことができ、効果が期待できる経営手法です。ご関心をもっていただけた経営者の皆様、ぜひ最寄りの中小企業診断士にお声がけください。

中小企業診断士 土田 健治

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■――――――――――――――― NPOみなと経営支援協会−201112―■

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